この家に引っ越してきたとき、庭には所狭しと木が生い茂り、あまりに鬱蒼としていたため住宅街に位置していながらここだけ外部から隔離された別世界のようでした。リビングルームから外を見ると、まるで森のなかの一軒家に住んでいるかのような錯覚をおぼえるほど。おかげでとても開放的な気分を味わうことができました。
とはいえ、近隣の皆さんがスッキリ綺麗にお庭をお手入れなさっているのに、我が家だけがまるで木々に埋もれた幽霊屋敷のようだったので、これではさすがにまずいだろうと、少しずつ庭の整理を始めました。
お庭をいじり始めると、いろいろと楽しい発見があります。
お隣さんとの境界線ぎりぎりのところにギューッと押しつぶされたように生えていた木を切り倒すと、チーズのような柑橘のような不思議な芳香を放ちました。見ると、ミカンのような香りのする小さな実がなっています。試しに齧ってみたところ、渋いこと渋いこと。しかもそれは「シキミ」と呼ばれる有毒の植物でした。
また、ブドウの実がなっていたので熟れるまで毎日楽しみにしていたら、色が変わる前に小鳥がつついて穴が開き、そこにアリがたかっていました。あらあらもう熟れてたのねと、綺麗なまま残っているのを食べてみたら、種ばかり大きくて少々食べにくかったけれど甘くておいしかったです。
そして今日、またひとつ新たに分かったことがありました。
庭の端に柚子の木がありまして・・・。実が青いときに収穫すれば柚子胡椒を作ることができるとあったので、試しにひとつ獲ってきて包丁で半分に切ってみたんです。そうすると、香りがちっとも感じられないだけでなく、ほとんどが白い綿で、果肉がほとんどなかったんですよ。
それで私は、「栄養が足りてなくてきちんと育ってない柚子」だと決め込み、それきり柚子の存在はほぼ忘れていました。最近ふと見ると、いつの間にか柚子の実がすごく大きく育ち、少しずつ色づき始めていました。それにしても大きい。柚子ってこんなに大きかったっけ? 近づいても香りがしないし、あまりに不格好。まさか「食べられるかも!?」と期待したのに有毒だったシキミ同様、食べられない柚子(または何らかの柑橘類)・・・?
でも調べてみると、これは鬼柚子(獅子柚子とも)と呼ばれるもののようです(たぶん)。文旦の仲間で、そのまま食べても美味しくないようですが、マーマレードにするなどちょっと手を加えれば食べられるみたい。うーん、料理が苦手な私、どうせならそのまま皮をちょっと削って香りづけできる普通のタイプの柚子なら良かったのに、なんて思っちゃいますが、前にお住まいだった人が植えたものなのだから、そんな勝手なことを言ってもね。
いっぱい実をつけてくれているので、もう少し色づいてきたら収穫して、ものは試しに何か作ってみようかしら。
へぇと思うことの多い毎日。何も知らないのもなかなか楽しい。