湯船にお湯をはってキャンドルに火を灯し、足をのばしてゆっくりお湯に浸かる。一日の終わりの贅沢な時間。
炎の揺らぎについうとうとしながら、窓の外の虫の音に耳を傾ける。
ここ数日、ツヅレサセコオロギがよく聞こえる。私はこのコオロギの声が好きだ。ツヅレサセコオロギという名は、冬の訪れが近づくころ、この小さな虫が「肩刺せ裾刺せ綴(つづ)れ刺せ」と着物の冬支度を促していると古人が聞きなしたことによるらしい。
どこかしかの草の影で懸命に鳴く痛々しいほど健気な虫に、私は愛情すら抱き、感傷的で満ち足りた気分になる。この声が晩秋の冷たい風となって消えてしまうその時まで。