ここのところはずっと、夕方になってツヅレサセコオロギの声が聞こえると「よかった、まだいてくれた」とほっとする毎日です。それでも聞こえてくるのはほんの1匹だけ。一生懸命鳴いているけれど、その声を聞いて駆けつけてくれるお嫁さんはまだいるのかしら。
どの季節の昆虫にも必ず最後の一匹がいるわけですよね。つい先日は昼間にアオマツムシを聞きましたが、おそらくあの声の主がこの辺りでは最後。周りの仲間がどんどんいなくなって、最後の一匹になるのは一体どんななんだろうといつも思うのです。
最後の一匹と言えば、もう何年も前、近くで見つけた邯鄲(カンタン)という虫を持ち帰ったことがあります。小さい籠に入れておいたら、その夜から毎晩リリリリ・・と元気に鳴くようになりました。
そのうち放しに行こうと思ううちに日が経ち、気温がさがってきました。そこで邯鄲の容器を暖かいところへ移しました。季節を知らず、邯鄲は元気に鳴きます。
そのうち秋になり、冬になりました。外ではもう昆虫の声はしないのに虫かごのなかで懸命に鳴く邯鄲。私は心底申し訳なく思いました。この邯鄲は一匹ぼっち。外はもう静まり返っているのに、彼は何も知らずに身体いっぱいに鳴くんです。毎晩、毎晩。
年末のある夜、部屋がふっと静かになっているのに気づきました。見ると細くか弱い黄緑色の虫は、横向きに倒れて動かなくなっていました。
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